昨今次々に廃止になっている北海道の鉄道。この場所はかつて鉄道駅があった場所ですが、いま少し違う道を歩み始めています。
天塩弥生駅 宿と食堂
明治維新以降の国の交通政策は道路より鉄道整備が優先して行われましたが、北海道は開拓や国防の側面があったため鉄道優先の傾向が内地より強く、かつては鉄道が道内各所に縦横無尽に張り巡らされていました。しかしながら国鉄からJR北海道に移管されるタイミングに際して、赤字の大きかった路線が順次廃止になり、全盛期4,000kmあると言われていた道内の鉄道総距離が、現在は2,500kmほどになっています。
天塩弥生駅は廃止になった深名線(しんめいせん)の一駅であり、その場所にあるこちらの建物は一見かつての鉄道駅に見えますがこちらは新築の「宿」。路線廃止後更地になっていた土地を元鉄道マンのご夫婦さんが購入。かつての鉄道駅を忠実に再現しつつ新しく建てられたのが「天塩弥生駅 宿と食堂」です。
旧深名線(しんめいせん)
奥から手前へ草が剥げている部分が、かつての深名線の軌道跡。
深川
名寄
を結ぶことから名付けられた深名線は、国鉄の赤字路線が問題視され、JR転換前に不採算路線が廃止になる渦中にあって、代替道路の未整備を理由に廃止を免れました。深名線沿線は日本有数の豪雪地帯であり、厳冬エリア。即座にバス転換というのは無理があったようです。結果的に平成7年(1995)9月に廃止になりますが、JR化後も列車が運行されていました。
忠実に再現された駅に踏切、分岐器、通信ケーブルを繋いでいた電柱と碍子(がいし)に、腕木式信号機(うできしきしんごうき)まであり、国鉄時代を知る者としては感動の涙が出てしまいそうな鉄道施設たちです。
木製電柱と碍子(がいし)
円柱用の駅名標が掲げられた電柱。木製なのがまた泣かせます。意地の維持でしょうか。そういうの大好き。
電柱上部にある湯のみみたいなものは「碍子」。電線を電柱から電柱へ渡すための繋ぎの部品。素材はそれこそ湯飲みと同じ瀬戸物です。
役割は電気を他の部分に通さないための絶縁体。なぜそのような割れてしまうものが用いられているかと言うと、今でこそ絶縁体部品はゴムが一般的ですが、深名線が敷設されたような戦前はゴム素材の入手が困難でした。第二次世界大戦で日本は東南アジアに進駐しますが、原油の確保など様々な理由がある中で、熱帯雨林に生育する「天然ゴム」の入手も目的の一つだったくらいです。
戦後は国内でゴム素材を製造することができるようになったので、比較的新しい時代に敷設された路線や、大都会など頻繁に列車が運行されている場所では常に新しい素材に取り換えられているため、これほど無骨な碍子を見ることができません。
ちなみに、ゴムの発達によって碍子=瀬戸物の需要が減少したわけですが、かつて碍子を製造していた事業所が、別の商品に製造転換することで、その業界を牽引するメーカーさんになっているパターンがあります。我々の生活に欠かせない、毎日必ず3度4度、もっとお世話になるアレ。
便器ですね。
元々土管やタイルなどを製造していたメーカーさんでも、この事業転換の流れを見ることができます。
腕木式信号機(うできしきしんごうき)
かつて存在した鉄道信号機で「うできしきしんごうき」と読みます。昔あったライト類は「電球色」と呼ばれるあの色だけ。そうしたところで赤や青をどのように表現するか。ライトは固定で、赤、もしくは青のガラス板が張られた羽根が上下に動き、それぞれの色を運転士に知らせることで、その時の運行指示を行います。
羽根を動かす動力は電動のものもあったようですが、主には人力。駅員さんがワイヤーを通じて羽根と繋がっている転換期を反転させることで、信号を切り替えていました。
昔はローカル線に行くとそれほど珍しく見ることができたものですが、今はすっかり姿を消したものの一つ。三重県の名松線(めいしょうせん)では、割と最近まで使用されていました。今、現役で稼働しているものはあるのでしょうか。気になったので調べてみたところ、青森県の津軽鉄道で現役稼働中のものがあるようです。
ドギー、初めての牧草ロール
天塩弥生駅に到着して、宿の前に広がる原っぱをドギーとドッグラン。草の種類が茎が硬くて背丈もそこそこあったので、この時はチクチク痛かったかもしれません。
旅中のドギーとの宿泊ですが、主には飼主と一緒に車中泊。なので彼との旅は夏以外か、北国か、夜は涼しい長野のような高地か。飼主だけふかふかの布団で寝て…は、あまり好きじゃないので、宿同士でやりとりがあるところや、気になっているお宿さんでのみ宿泊しています。
旅人が集まるお宿の晩ごはん
天塩弥生駅がある名寄市(なよろし)は、北海道でも内陸にある街。地元野菜がふんだんに使用された美味しい晩ごはんを、お腹一杯食べることができます。
この時はライダーさん、旅人宿めぐりが趣味のゲストさん、犬と日本一周・北海道編の自分の宿泊メンバー。宿内の鉄分溢れるインテリアと相まって、旅話で大いに盛り上がりました。