実はまだスタートしていません。カヌーはスタート地点にやってきて荷物下ろして、はいスタート!というわけにはいきません。川を旅している時間より準備と片付けの時間の方が長い。今回はドギーと北山川を万全の態勢で下るために入念な準備を行います。
準備に時間をかけるか、片付けに時間をかけるか
準備に時間をかけると片付けの時間が短くなるし、最低限の準備だけでカヌーを始めると片付けに時間がかかる。
どちらも一長一短ありますが個人的にカヌーにおいては前者タイプ。始める前は元気・やる気十分なので意気揚々と準備に取り掛かることができますが、終わって川から上がる時は疲れています。ささーっと片付けて荷物を自家用車に積み込んですぐに温泉へ行くなり宿泊地へ向かうなりしたい。
というわけで、今回の北山川(瀞峡)カヌーの旅は先の準備に時間をかけることにします。まずは道路から下に見えている河原へカヌーを下ろすところから開始です。
カヤック担いで階段下り
もちろん人力です。この通り。車からカヌーを下ろしてカヌーを持ち上げて抱え川への下り口へ向かいます。
瀞ホテルさん横の狭い階段をカヌーを頭に抱え慎重に下りて行きます。
重たいのは意を決して持ち上げているのでそれほどでもない。
ここでの最大の難関は直角のコーナー。気になるのは重さよりも長さ。こちらのカヤックは全長約10フィート(=3m)。カヤック壊さないように、というよりここではカヤックを当てて瀞ホテルを傷つけないようにという点で細心の注意が必要。瀞ホテルは平成29年(2017)2月に奈良県から指定を受けた有形文化財。壊すと罰せられます。瀞ホテルファンの方々から突き上げの嵐です。加えて階段が続くので足元にも注意を払わないといけません。
こちらのカヌーの長さは3mそこそこなのでそこまで運ぶことが難しいものではありませんが、フネの長さが4mを超えると先ほどのコーナーをクリアするのは一人では難しいです。
9割クリアしたようなもんです。油断せずにゆっくり進めば河原はすぐそこです。
このように一人で持ち上げて頭部で支える方法と、二人で船首・船尾を持って運ぶ二通りの方法があります。
が、この場所では一人で持った方が良いです。二人で前と後ろを持つと後ろの人が引っ張られることになり、下り階段なので危険です。
一番良いのは一人がカヌーを持ってもう一人がそばについてパドル等のアイテムを運びつつ、曲がり角でカヌーを当てないように見ながら足元等の危険を知らせる、水先案内人になるのがベスト。
先に運んでいたカヌーと合わせて二艇搬送完了。
赤色が25kg
黄色が20kg
これも重たいものから運んだ方が賢明です。後が軽く感じる。5kg違うと負担は相当のものですがここでは通路の関係で重さより長さの方が厄介な要素です。
カヤックへのこだわり
なんか大層なことになってしまいましたが、現代カヌイストはこんなことしなくて良いです。空気を入れて膨らませてすぐに乗ることができる「インフレータブル」なるカヌーもあります。それなら軽いし準備・片付けも楽チン。車の天井にカヤックを積むとで運転に気を遣いますが、折り畳んで車内で運搬することができるので、その心配もありません(もっと軽量コンパクトなパックラフトというフネもあります)
けれど、自分はこのタイプのカヤックにこだわっています。
少々川底でこすっても壊れない安心感があるし、デッキに荷物を積んでキャンプツーリングということもできる。実際のところ日本国内では泊まりながらカヌーツーリングができるような長いコースを取ることができる川はそれほどありませんが、そこは夢として所有している感じです。
旅するスタイルとしてもこのタイプのカヤックの方がかっこ良いと思っています。
自家用車の回送、先か後か
田戸(たど、瀞ホテル)でカヌーを河原へ下ろした後、自家用車を走らせてやってきたのは下流の「小川口(おがわぐち)」。北山川で運航されているウォータージェット船が発着している船着場の一つで、住所的には三重県熊野市になります。
カヌーで川を下る際少し頭を使わないといけないのが、自家用車の回収。
①車を先にゴール地点に回送しておくか
②下った後で車を取りに戻るか
個人的には①の先に車を回送するパターンがお勧め。川下りした後ってなかなかの疲れ具合。作業が最低限で済む前者が楽チンです。今回もそうしています。
①②いずれにしろ、どのような手段で上流(スタート地点)に戻るのか。
③路線バス、鉄道、定期船等の交通機関利用
④タクシー
⑤車二台で来ている場合はそれぞれ上流・下流に分かれて停める
⑥徒歩orラン
⑦下流(ゴール地点)に折り畳み自転車を置いてから上流に回る
他にも方法はあるのでしょうが自分は主に③。その地域のローカル交通手段に乗りたいのが理由です。
ただしカヌーで下りたくなるような綺麗の川は一般的に人口希薄地域にあり、交通機関の本数が少ない。事前に運行ダイヤを調べておかなければそう上手くはいきません。
車を下流に停めてから上流に戻る方法は下る川によって異なりますが、北山川はウォータージェット船が川を往来しているので定期船で上流に戻ることができます。下流の小川口に車を停めてからジェット船でカヌーを河原に下ろした上流の田戸へ戻り、川下りを楽しみたいと思います。
小川口から乗船するためには予めチケットを購入する必要があるようで、それを販売所しているのは近くの旅館・瀞流荘。
この場所から歩いて行くには少し遠い。先に車でそちらに回ってチケットを購入してから船着場へ来るようになるので、それなりに時間を要します。
小川口乗船場
ジェット船のチケットを購入してから乗船場へ。と言っても係員さんがいるわけではありません。本当にここで合っているのか不安になる停留所です。
下りのジェット船は寄港しないで通り過ぎて行くし。
後から船員さんに聞いたのですが、この場所から下りの乗船は殆どないらしく予約が無い時は寄港しないとの事でした。上りはこの先に瀞峡があるので、広い駐車場が完備されていることと相まって休日等には観光客の利用があるようです。
ご当地メシ
待っている間に腹ごしらえ。これから下る北山川を眺めながらご当地めし「さんま寿司」を頬張りながら、ジェット船の到着を待ちます。サンマって北の魚なイメージですが、紀伊半島周辺では丸干しであったりお寿司にされたり。この地方では馴染みの深い食材です。
川を眺めていると、わりと頻繁に船が通ります。
*「定期船以外に団体さんの貸切便も来るから、カヌー気を付けてね」
船員さんから有難い助言を頂きました。ダイヤに載っていない船の存在を知ることはできたのは大きな収穫。カヌーで下る際に注意が必要と感じました。
ここへどうやって停まるの?
来ました来ました!
どうやってここに停めるんかなーって見ていたら…
タイヤが置かれているところへザザーっと乗り上げて接岸。タラップ下ろしてはいどーぞ。あっけなく乗船となりました。
観光気分で乗船
小川口での乗船完了。下船客無し、乗船は自分だけ。多くの乗客は熊野川沿いの志古(しこ)から瀞峡の往復のようです。自分一人のためにお立ち寄りありがとうございます。
小川口船着場から離れて行きます。この場所は後ほどカヌーで下って来た時のゴール地点になります。
すぐにトップスピードに乗り、すいすい川を上って行きます。
と、ジェット船に歓喜しているばかりではいけません。せっかく同じ場所を通るのだから下るコースの下見、危険個所の把握など、しっかりスカウティングを行って後のカヌーツーリングに生かしたいと思います。
不思議地形・木津呂(きづろ)
あのくびれは木津呂の付け根。
嶋津から俯瞰する木津呂は絶景間違い無しですが、それをぐるりと取り囲む北山川を伝っての川の旅も最高です。おっと、もう川旅をしている気分になってしまった。本当の川旅はまだ始まっていません。
再び川の風景
植林の中に石垣がちらほら。通称「筏師の道」。かつて筏乗りたちが材木を河口に流した後、歩いて帰るのに通った道の跡を見ることができます。
この辺り川と集落との距離が近い。山深いため往来する道に乏しく川が生活の道であった証。反面、これだけ川から近いと水害が心配です。日本一の多雨地帯であり川自体も蛇行しているので、川が氾濫する条件が揃ってしまっています。
ジェット船は瀞峡へ
ここからが「瀞八丁(どろはっちょう)」の始まり。これまでの水深が浅くて流れがそこそこあり川幅が広いロケーションとは対照的な、水深が深くて流れがゆるく川幅が狭い区間へと川の様子が変わります。
「瀞(どろ・とろ)」
とは、川が深く流れが緩やかになっている部分。対しては「瀬(せ)」
瀞八丁の入口である下瀞に差し掛かったところでジェット船は徐行、エンジン音を最低限に落として奇岩がそそり立つ静かな渓谷を分け入っていきます。
光が射す船内に歓声が上がります。
船内放送で観光ガイドを交えながらジェット船はゆっくり進みます。
太古の昔からの岩の割れ目。高さは50mを超えると言います。国内屈指の景勝渓谷・瀞峡。カヌーならずとも楽しむことができますよ。しかも水に濡れずに。
長かった準備時間
瀞ホテルが見えてきました。下船する&カヌーを置いてある田戸に間もなく到着。
カヌーを下ろすときにも居たカモ2羽のお出迎えで、田戸上陸。スタート地点に戻って来ました。
ここまでどれくらい時間がかかったでしょうか。カヌーをここへ下ろすところからすれば2時間くらい?
逆に言えばスタート地点に着いてすぐ川下りを始めたら、今これだけかかった時間を後から片付けで要するわけです。漕いで疲れた身で。
カヌーは乗るまでの準備が大変な「おそとあそび」です。