終着駅ってどこか哀愁漂う存在。ただそこにあるだけなのにその物悲しさが惹かれます。
甲浦駅
「かんのうら」と読みます。JR牟岐線から少し伸びた先にある小さな鉄道会社の駅で、営業区間は
海部(かいふ)~宍喰(ししくい)~甲浦(かんのうら)の三駅・8.5km。
その鉄道の名前は阿佐海岸鉄道(あさかいがんてつどう)と言います。小さな町の小さな鉄道ながら徳島/高知の県境を跨ぐ。
甲浦駅があるのは阿佐東線(あさとうせん)の路線の終着駅。阿波と土佐から一文字ずつ取って阿佐。名が示す通り元々は徳島から室戸岬を経て高知までを結ぶ国鉄阿佐線として計画されました。しかしながら赤字により建設中止。建設を続行するかどうかは各県や沿線自治体に委ねられ、
阿佐東線…阿佐海岸鉄道(海部~甲浦)
阿佐西線…土佐くろしお鉄道ごめんなはり線(後免~奈半利)
それぞれ県や沿線自治体が出資する第三セクター方式で一部分が開業した。
海部~甲浦 …野根…室戸…羽根… 奈半利~御免 ※…は未開通区間
結果的に甲浦から奈半利の間が鉄道として開業を果たせませんでした。現在その区間は路線バスが室戸岬を経由して両駅を結んでいます。
あさてつ自体運賃は最大区間を乗車したとしても270円。安いと感じるかもしれませんが、8.5kmしかありませんもの。そらうみへ来られる旅人さんが多く利用されることでんの「高松築港-一宮」は9km少しで380円。一概に並べて語ることはできませんが安いのは確かなようです。
通学・通勤考慮ダイヤ。人口規模のわりに本数がある方だと思います。
階段を上がってプラットホームに向かいます。
高知県で最も東に位置する甲浦駅。
と言っても線路はここで切れていて高知県とは鉄路で繋がっていない。
計画当時はここから先の工事が予定に入っていたのでしょうが、この先が建設されることはありませんでした。
所要時間が途中で徒歩から車に変わるので注意。レンタカー屋さんはもちろんこの集落にはタクシー会社はなかったように思います。ここに降り立って車と言われてどうしましょう。車=路線バスをご利用下さい、という解釈にしておきます。
「フェリー乗り場」とありますが遠くない昔に
大阪南港~甲浦港~あしずり港
という高知県の東西両岬と大阪を結ぶ航路 「高知シーライン」というフェリー会社が存在しました。自分も四国ツーリングで乗船、甲浦港に降り立ったことがあります。乗船はその一度で明石大橋の架橋や座礁事故による損失等により、平成13年(2001)に航路休止。その後廃止になりました。現在はこちらに表記されている徒歩20分を歩いて港に行っても、使われていないターミナルとフェリー施設が寂しく残ります。
神話の国からやってきた列車
そうこうしていたら下り列車がやってきました。線路と並走する国道55号を走って行ってもなんせ約8kmのミニ鉄道。運行している列車の姿が見れることはあまりありません。まじまじと見るあさてつの車両。楽しみです。
四国東の終着駅・甲浦に列車がやってきました。
「あさてつ」こと四国最果てのミニ鉄道・阿佐海岸鉄道。海部~宍喰~甲浦の8.5kmを2両ある在籍列車がひたすらピストン運転を行っています。
徳島県のマスコットキャラクター。平成5年(1993)に行われた東四国国体のイメージキャラクターとして平成2年(1990)に採用された、20年以上の歴史を持つベテランマスコットキャラクター。まだゆるキャラという言葉が誕生していない時代に誕生しましたが、人気を博してすだちくんが描かれた国体会場の幟が盗難に遭うことがあったほどです。
ここに見逃してはいけないポイントがあります。「阿佐海岸鉄道」の塗装の下に「高千穂鉄道」の文字。あさてつに在籍する二両のうち一両は今は亡き高千穂鉄道(たかちほてつどう)から譲渡されたもの。
JR高千穂線から転換された高千穂鉄道ですが平成17年(2005)9月台風により鉄橋などが流出。平成21年(2009)に廃止が決定。解体される列車もある中そのうちの一両があさてつに譲渡されました。同時期あさてつでは前年の事故により二両在籍するうちの一両が廃車になって、たった一両でのやり繰りを余儀なくされていました。けれど新車(中古車だとしても)を購入する余裕なんてあるはずがなく、導入がままならない状態のところに高千穂鉄道から無償譲渡の提案。そすいて神話の国からやってきたのが「TR201型」改め「ASA-300形」です。
宿泊施設に転換されたASA-300形と同型車両に泊まった時の記事はこちらです。
イベント列車
天井の電飾だけでなく窓には造花の桜が飾られていますが、
あさてつは会社名に海岸とついていますが路線の多くはトンネルと高架が占めます。国鉄阿佐線の名残で急行列車等が高速運転が可能なように建設されたため、カーブが多い海岸沿いを避けて山を迂回することなくトンネルで貫通する直線的な線形なのが特徴。例えるならサーキットに軽自動車が走っている状態です。
そこは良いほうに考えてトンネル区間→日中でもイルミネーションを見ることができる。そんな企画がこちらです。
阿佐海岸鉄道は元々国鉄阿佐線として工事が行われていたものが、昭和55年(1980)の日本国有鉄道経営再建促進特別措置法の施行により工事凍結。既に工事が完了していた区間やどうしても鉄道を開業させたい部分を沿線自治体が出資して、工事を引き継ぎ開業に漕ぎつけたことことが始まり。
商機があって建設されたものではないもので、実際平成4年(1992)3月の開業以来 一度も黒字を計上で来ていない。100円の収入を得るのに900円以上要する(営業係数)など毎年多額の赤字を計上。収支は全国の鉄道事業者の中で 最も悪い状態が続いています。
沿線は徳島県南部の高知県との県境地帯で人口が少ない
高等学校の統廃合により定期収入が減少
沿線に観光地が存在しない
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あさてつを取り巻く環境は末期的に近いのですが、どうにか存続の道はないものでしょうか。今後の世情や動向が気になります。
発車、そして静寂のプラットホーム
潮風が当たる地域を走るからか経費的な事か。車体の汚れが気になります。地方鉄道の運営は大変です。
また閑静な終着駅へ戻りました。駅がある場所は甲浦の中心集落ではないので、列車が停車していても聞こえる音はエンジン音が殆どです。
あさてつはこの先本当にどうなるかわからないわかりません。乗るなら今のうちです。
その後
廃止が危ぶまれていた阿佐海岸鉄道ですが、その後面白い未来へ向かって歩み始めました。