串に刺したおさかなを、囲炉裏で炙って食べる。シンプルだけれどとっても貴重な体験ができるお宿が、東北岩手にあります。
予約方法は往復はがき
その宿があるのは東北岩手。日本一面積が広い岩手県の海沿い。青森県が近い県北部に位置します。
お宿の建物は「南部曲がり家」と呼ばれる当地伝統の古民家。現在は殆ど見られなくなった家屋の形ですが、苫屋(とまや)さんはその伝統を受け継いでいます。
苫屋さんの予約は「往復はがき」一択。電話やメールはありません。
理由を尋ねると「始めた時がその方式だったから」
そうです。
往復はがき、書き方分かりますか。今でも使用される場面は同窓会の出欠を知らせる時でしょうか。そらうみがある香川県だと「イサムノグチ庭園美術館」が往復はがきで予約を行います。希望日をいくつか記して、その可否が送られてくる。苫屋さんもその方式です。
字は人を表すもので、それを見て若そうだったらごはんのボリュームを増やしたり…と、工夫を楽しまれているそうです。その心がけ、とてもよく分かります。
曲がり家内部
内部は玄関をくぐると右と左に分かれます。右は客室。居間や台所から離れた場所になるので、元々はお蚕さんを飼ったり家畜を飼育する場所だったのかもしれません。きれいにリフォームされています。
左は囲炉裏のある居間。苫屋さんは夕食提供型のお宿。地元野菜を用いた素朴な味わいのごはんを、宿主さんたちや宿泊のみんなでいただきます(そらうみと同じ)。
BGMは鳥のさえずりや囲炉裏の薪が焼けて弾ける音。掛け時計が「コッチンコッチン」と時を刻みます。何があるかと言えば、何も無いがある。と言った雰囲気。他愛もない話だけでごはんとお酒が進みます。
ドリンクメニューはアルコールの他に「山ぶどうジュース」。町の道の駅などでも購入することができる、野田村の特産品です。
明るい時間から食べ始めたごはんは時が過ぎ、日没と共に解散。とても心静かに休むことができました。
苫屋で過ごす朝の時間
朝。囲炉裏のにおいで目が覚めました。
居間を覗いてみると、火から少し離れたところでおにぎりが炙られていました。朝ごはんに期待を持ちつつ、ドギーの散歩がてらお宿の周辺を歩いてみます。
道路を挟んで反対側を流れる小川。水はとてもきれいです。
苫屋さん建物を見上げると、屋根にしみ込んだ湿気が囲炉裏から起きる熱によって蒸発。湯気となって立ち昇る光景を見ることができました。更に上部を眺めて見ると草が生えているのが見えます。どこだって雑草は強いですね。
置いてあったスーパーカブのナンバーは「野田村」
人口4,000人の村に登録された希少な原付バイク。苫屋さんがあるのは内陸部ですが、野田村中心部は三陸海岸に面した海沿いの街。
明治29年(1896)の明治三陸地震
昭和8年(1933)の昭和三陸地震
平成23年(2011)の平成三陸津波→東日本大震災
各時代ごとに地震やそれに伴う津波によって壊滅的な被害を受けてきました。そのたびに立ちあがってきた人々の力強さに感服です。
お楽しみの朝ごはん。シンプルながら土地の恵みを感じるには十分な内容でした。
苫屋の作り手さんたち
苫屋の作り手・宿主さんご夫婦と、そらうみ宿守・ドギーの記念撮影(ドギーはいつもの車中泊)。
ご主人は自分と同じ兵庫県出身。全国全世界を旅された中で東北の岩手の野田村に縁があって暮らし始め、旅人宿をオープンすることができた、とおっしゃっていました。
便利ではなく、不便。
豪華ではなく、質素。
忙しない現代社会に追われている者にとって苫屋さんの「時が止まった感」は貴重な存在であり、旅人ならその雰囲気を一度味わって欲しい。同じく宿屋を運営する者として、とても感じました。