大東諸島開拓の地・西港を見学した後、腹ごしらえを行うために中心集落である在所(ざいしょ)へ戻ってきました。
大東諸島のルーツを味わう島グルメ
旅の楽しみとの一つとして連想される「グルメ」。その土地ならではの物を食べることは楽しみであり、何よりその土地を感じる悦びを得ることができます。ですがここは絶海の孤島・南大東島。よそから来て食べものがあるだけで奇跡。それも地のものとなると猶更です。
「ごめんくださーい」と入店。この暑さの中クーラーが効いているのがとてもありがたいです。
食べるのはもちろん「大東そば」。それに「島寿司」を加えた王道セットを注文。
今風に言うと、どちらも南大東島「ご当地グルメ」。人類が住み始めてまだ100年くらいしか経っていない大東諸島。このグルメにも開拓の源流を見ることができます。
基本はかつおだしにソーキ(豚バラ煮)が乗った沖縄そば。どの辺りが「大東」なのかと言うと、
小麦粉に珊瑚礁由来のミネラル成分をたっぷり含んだ南大東島の水、それに島に自生する亜熱帯植物を燃やした時に出る灰汁の上澄みを使用して打った店主自家製麺。灰汁はアルカリ性で一般的な製麺に用いるかんすいと同じ働きがあるそうです。
鰆(さわら)や鮪(まぐろ)等、島の近海で獲れた魚をみりん醤油に浸けたものが握られるのが「島寿司」
いわゆる「漬け(づけ)」。大分では「りゅうきゅう」と呼ばれる料理。
この島寿司はまんま同じものを八丈島で見ることができます。八丈島からの開拓団に由来する大東諸島ならではの郷土料理の継承を南大東島で見ることができます。
寿司…「八丈島」
そば…「沖縄」
ご当地グルメのコラボレーション。ごちそうさまでした。
旧南大東空港
大東そばを食べてお腹一杯。車を走らせて「南大東空港」と掲げられた場所へやってきました。
強い日差しと太平洋ど真ん中の潮風を浴びて文字盤には年季が入ってます。
建物上部を見上げると「空港」なのですが入口に掲示されている看板等は「お酒」
こちらは南大東島唯一の酒造所。旧南大東空港の建物を利用してラム酒の製造が行われています。
ラム酒の試飲&購入に来たのですがそれよりこんなものに目が行きます。
昭和14年(1939)9月…旧帝国海軍が飛行場建設
昭和42年(1967)7月…南西航空の那覇便が就航
昭和47年(1972)5月…沖縄県本土復帰
ここで南大東空港の運命が変わる。沖縄の本土復帰に伴って航空法がこれまでの米国式から日本式に移管された際に、滑走路延長の定義が従来より短くなることが判明。当時日本全国で就航していたYS-11機が滑走路の短さから発着することができなくなり、以降DHC-6型など小型機による運航を余儀なくされました。掲げられている座席表を見ると、定員20名(乗客18名)であることがわかります。YS-11機の標準定員が64名だったことを考えると航空法の移管によって実に4分の1近く輸送力が落ちたことになります。
滑走路を延長せず空港を別の場所に移転した理由は島の中央部に貴重な淡水湖沼群があり滑走路がそこに干渉するため難しい。また空港の位置が島中央部の窪んだ場所のため霧がかかり易く欠航となる日が多い。それゆえ島の東部に旧空港とは異なる方角で南北の滑走路を備える新空港が計画されました。
平成9年(1997)7月…島の東部に新南大東空港完成、移転。それまでの南大東空港は廃止。
20数年経ての新空港開設は島民の悲願であったことでしょう。ちなみに大東諸島のもう一つの有人島・北大東島は戦前戦後そもそも空港がありませんでした。昭和53年(1978)開港。
南大東島の地酒、ラム酒選び
平成16年(2004)3月…株式会社グレイス・ラム設立。
南大東島特産品のさとうきびを用いたラム酒製造が始まりました。
社屋にはかつての南大東空港を再利用した南大東島唯一の酒造メーカーさんです。
☆コルコル
一般的なラム酒で製糖を行う際の副産物である糖蜜を発酵させて作られたもの
★アグリコール
サトウキビの搾り汁を発酵させて作られたもの。原料はサトウキビ収穫時期(冬)にしか手に入らないとても希少なラム酒
両方試飲させて頂きましたが、★は草の味がする。畑でサトウキビをかじったり搾り汁を飲んだ時に感じるあの味覚です。
※運転手は別に居ます
公式的に「★アグリコール」を生産している場所は、レユニオン(インド洋)やマルティニーク(カリブ海)等のフランス海外県の一部と南大東島など。世界的に見ても稀な存在だそうです。
ラム酒のラインナップは、「★アグリコール」「☆コルコル」それぞれ
300ml/720ml
25度/40度
☆★それぞれ四通り。計八種類の中から選ぶことができます。
★が希少なのは重々承知ですが試飲させてもらって個人的には☆の方が好みでした。内容量は今時は通販で購入することができるにしても、希少な絶海の孤島のお酒。大は小を兼ねるで多い方を買っておくと間違いないと思います。また、せっかくラム酒を飲むのだったら度数は高いほう。40度がお勧めです。
ラム酒ケーキ
こちらではそれを用いて作られたお菓子も販売されています。
お子様はもちろんお車を運転する前に食べてはいけません。感覚的には、
「お酒を食べる」
感じ。ここまでガチな酒ケーキはなかなか他にありません。
旧南大東空港ターミナルからの眺め
試飲&お買い物をしていると建物の屋上に行けることを教えてもらいました。
かつての南大東空港の滑走路にはビジターセンターとして 「島まるごと館」が建てられています。他には村営住宅など。
この場所が南大東島で一番低い部分。島の輪郭がまるで地平線のように見えます。海が見えないのでここが絶海の孤島であることを忘れてしまいそうな錯覚を憶えます。
島の中央部に点在する淡水池
グレイス・ラム(旧南大東空港)を後にして次はこちらへ。
さとうきび畑が広がる中に突如現れる標識を見落とさないよう。オヒルギとはマングローブの一種。マングローブとは南の島の海や河口などの水辺に繁茂している樹木の総称で、種(しゅ)としてはオヒルギやメヒルギ・サキシマスオウ等に分かれます。
観光で訪れている身としては暑くても晴天が何よりです。特にお外スポットが多い離島では雨降りはよろしくありません。ただ元さとうきび人夫(にんぷ)的には、きび畑を眺めているとさとうきびの若苗たちがカラッカラなのが心配になります。
早速登ります。
面積約40ヘクタールは天然湖沼では沖縄県最大の淡水池。そもそも島国なので淡水池が少ない沖縄県ですが南大東島には多数それがあります。
それよりも貴重なのはここに群生する「マングローブ(オヒルギ)」たち。基本的にマングローブは海水と淡水が交わる汽水域を好み、その種子は波に運ばれて川の河口付近に付着して発芽します。海水でも生きていくことができる。それはまた貴重な生態なのですがこちら大池のものは世界でも稀な淡水池に群生するマングローブ。
南大東島の原始時代。現在の島域が全て隆起しておらず大池は海に面した潮だまりだった。そこへマングローブの種子が流れ着き芽吹いた。その後地殻変動により島が隆起、池は海から切り離され現在の淡水池になった。塩分濃度の薄い海水がある場所を好んで生育するマングローブはその供給を絶たれたことになる。さてどうする。
大池のオヒルギは淡水でも生育できるように進化を遂げ固有の淡水マングローブ群落を形成するに至った。
大池を始め南大東島に点在する池沼は島民さんたちが生きて行く上で欠かすことができない生活用水であると同時に、さとうきびの畑作を行うにあたっては貴重な農業用水。ただしそれを汲み上げ過ぎると、世界でも稀な淡水マングローブ群落は失われてしまいます。
南大東島に初めて人類がやってきたのは明治33年(1900)のことですが、入植が遅かったぶん島固有の生態系が守られてきたのだと思います。