通常、公共の場であるプラットホームにペットを離してはいけませんがここなら大丈夫。可部線の廃止区間にあるかつての鉄道駅には在りし日に走っていた広島色の車両が静かに留め置かれています。
可部線の歴史
鉄道は廃止されて営業を行っていないので正確には「旧安野駅」になります。
初代開通区間は明治42年(1909年)12月と古い可部線。民営鉄道であったものが、中国地方最大の都市「広島」から山陰の港町「浜田」を結ぶ廣濱鉄道計画が持ち上がり昭和11年(1936)9月に国有化。可部駅から順次延伸工事が行われました。
しかしながら戦争による工事中断などにより延伸工事は遅れ、昭和49年(1974)に三段峡(さんだんきょう)まで開業した時には地域の移動はマイカーへ変動しており、山間部の人口も減少していたため延伸工事は中止。広浜鉄道の開通は幻となった。
更に延伸区間の「可部-三段峡(※安野駅があった区間)」が国鉄の赤字が問題に端を発した赤字路線の整理対象になり、平成15年(2003)12月に廃止。可部より先の太田川流域を走る鉄道が姿を消した。
この場所ではありませんが廃止された前述の区間のうち、周辺の宅地化などにより復活した区間があります。平成29年(2017)3月、「可部-河戸(こうど)」間に当たる区間が電化され「可部-河戸帆待川(こうどほまちがわ)-あき亀山」として復活開業。一度廃止された区間が復活するのは全国初の事例になりました。
ちょうどこの時廃止された路線に相当する区間を運行している路線バスが前を通って行きました。ここから決して近いわけではありませんしご覧の通りの山奥の集落。けれどそのバスに乗車すると広島市街地の中心に乗換無しで行くことができます。そのことが部分廃止の決定打になったとも言えます(※後述)。
街が寂れるから鉄道が廃止されるのか、鉄道が廃止されたから街が寂れたのか。
鉄道の廃止等で目にする地方の衰退に国土保全の危機を感じます。
猫とかつての安野駅
かつての鉄道駅は現在 「安野花の駅公園」 として整備され、四季の花と在りし日の鉄道施設を楽しむことができるスポットになっています。
駅前にある別の近隣案内図。線路がしっかり描かれているあたり廃止前に立てられた物のようです。
安野駅のところに「猫の駅長」とあります。
有人駅時代に駅長さんが猫を飼っていて「猫が居る駅」として他の猫たちも集まってきたそうです。その状態は無人駅化後も続いていましたが、路線が廃止されることになりその区間に含まれる安野駅は一度解体が行われることになった。そこで猫の居場所が無くなることを心配した動物愛護団体などが動き、猫たちは里親など引き取り先が見つかり駅は解体中止。花の公園として再整備された。
今日「●●の駅長」が全国的なブームになっていますがそれらが登場するずっと前、自然な形で駅長を務めていた猫がここに居たことになります。
鉄道の遺構
解体を免れた駅舎とJR西日本規格の駅名標、プラットホーム。そこに静態保存されている列車は鉄道運行当時と同じ姿に見えます。
線路の錆がここにはもう列車が走っていないことを痛感します。
沿線は鉄道熱が高い地域。廃止の話が浮上した頃から沿線住民の反対運動が起こりその声に応える形で列車の増発試験等が行われましたが、結果は芳しくなく惜しまれつつ廃止になりました。その鉄道熱は廃止後にも沿線で車両や鉄道施設が保存されている点から、窺い知ることができます。
これは難しい問題で鉄道に注ぐことができる一番の愛情は「乗車する事」。広島は郊外と市街地を結ぶバス路線が充実していて、このような山間部からも市街中心地である紙屋町(かみやちょう)のバスセンターへ直通バスが出ています。廃止当時の「可部-三段峡」で運行されていた鉄道は一日8便で平均すると2時間に1本。対して路線バスは1時間に1~2本。その利便性もですが鉄道より運行距離が短いため早くて安い。乗換無く市街地の中心へ行くことができる。可部線の部分廃止は既に代替交通手段が構築されていた事が大きかったようです。これが浜田まで全通していたら都市間列車が走っていたでしょうから運命は違ったかもしれません。
鉄道の管理はいち企業であるJRに丸投げですが国は道路を作ります。バス会社は車体の整備や運営を行う必要はありますが、走らせる道に対して管理を行う義務がありません。この点は全国様々な場所で指摘されている問題です。
「ワンマンのりば」「横川方面」
広島方面じゃなくて「横川(よこがわ)」というのがベリーグッド!今でこそ全ての列車が横川から山陽本線に入って広島駅まで直通(またはその逆)していますが、路線の始まりは横川駅です。
線路上を歩く事ができるおさんぽスポット
そちらをドギーとさんぽ。花の駅の名の通り、沿道には桜が植えられていて春に来ると良さそうです。
最近線路立ち入りで列車の運行を妨げた等のニュースを頻繁に耳にしますが、線路上を歩きたくなった時は「安野花の駅公園」へ行きましょう。明るい雰囲気の場所なのでワンチャンのお出かけさんぽにもお勧めです。
安野花の駅公園
旅の期間