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2020-04-28

かつての繁栄を留める山間のローカル駅<備後落合駅/広島県庄原市>


かつてこの駅を経由して都市間を結ぶ列車が中国地方各地から運行され、駅は大いに賑わいました。今は山間部の静かな無人駅となったこの地で、かつて繁栄した名残を探索します。

広く取られた駅構内が、かつての栄華を表しています


各社・各方向の境界駅

備後落合駅(びんごおちあいえき/広島県庄原市)

中国山地を横断する「芸備線(げいびせん/備中神代-広島・158.1km)」に所属する駅であり、三方向の行先が「落ち合う」場所。

実際、

新見…岡山方面→岡山支社
宍道…島根方面→米子支社
庄原…広島方面→広島支社

JR西日本内での三支社に管轄が分かれる境界駅。この地方における交通の拠点だったと言えます。

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様々な土地へ流れて行く水たち

足元を流れるのは小鳥原川(ひととばらがわ)

国道183号から駅前橋を渡って駅舎がある方へ進みます。下を流れる小鳥原川はすぐ下で西城川に合流。西へ向かって流れながら、三次(みよし)で「江の川(ごうのかわ)」に合流。日本海に注ぎます。

「広島・岡山・島根・鳥取」四県境に位置する備後落合駅は分水嶺でもあり、一つ丘を越えるだけで水が流れて行く方向が変わります。

広島方面…江の川
岡山方面…高梁川
島根方面…斐伊川(宍道湖・中海)
鳥取方面…日野川

その場所から右に進むか左に進むかで行く先が大きく変わる。ここでは鉄道・流れる川どちらも同じです。

 

駅前の商店たち

備後落合駅前にある数少ない建物

いわゆる駅前旅館ですが、現在営業を行っているのかどうかはわかりません。
鉄道全盛期は正規の客室の他に、夜更けに駅に到着した乗客が翌朝の列車に乗るまで仮眠を行うための貸間があり、それはそれは賑わったようです。

ショーケース内のキャッチコピーに年代を感じる

タバコの小売り、昔ありました。現在は行われているのでしょうか。
現代の価値観では考えられないキャッチコピーに、この場所は時が止まった印象を受けます。

現在は営業されていない地元タクシー会社の営業所

「道後タクシー落合営業所」とありますが、待機車両は無く看板と車庫のみが残っています。

 

こちら国道183号から備後落合駅までのアクセス道路は、鉄道会社の敷地でなければ私道でも無い。

「広島県道234号備後落合停車場線」
延長87m
世の中そんな短い公道があるものか気になって調べてみたら、県道レベルではわりと存在するようです。気づいていないだけでした。

日本一短い県道は「広島県道204号安登停車場線」
同じ広島県内の呉市安浦町にあり、こちらは約10m。区画整理の都合によって誕生したものですが、ここと同じようおそらく誰も気づいていないものと思われます。もっともそれだけ短い道路で管轄が変わるのは非合理的と言えるので、そういう点では 一般市民には気付かれない方が平和かもしれません。
※カウントの仕方によっては、長野県上田市にある「長野県道162号上田停車場線」を日本一短い県道とする場合もあります

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列車到達難易度は高い

駅舎の入口にあるJR西日本の縦型駅名標

縦型の駅名標はJR西日本規格のものですが、通常こちらは駅構内の柱等に掲げられるもの。駅の入口にあることは珍しい。

芸備線における位置関係

備後落合駅は「芸備線(げいびせん)」の中間駅であり「木次線(きすきせん)」の分岐点。すなわちこの駅から三方向へ列車が分岐しますが、当区間を運転している列車の全てが「備後落合行き」、もしくは「備後落合駅発」です。

木次線写真集 【本】

山の中の静かな駅に、三方向の列車が一堂に集まる時間帯がある

運行される本数は、
三次・広島方面…1日5便
東城・新見方面…1日3便
木次・松江方面…1日3便
これは日本有数の過疎路線。これより運転本数が多くても廃止になっている路線は、全国に数多く存在します。

「東城・新見」方面は間に東城(とうじょう)という街がありますが、ここで街に行くと言えば新見、もしくは福山へ出るほうが近い。
「木次・松江」方面の木次線はこの先で険しい峠(おろちループ)があり、こちらへ向かってくる人の流れが少ない。
それでいくと「三次・広島」方面へ向かったところにある備後庄原は備後落合駅が所属する自治体であり、近隣で最も開けた街。一定の通院・通学需要が存在するでしょうから他の方向より数便多い形ですが、それにしても5便です。

14:37新見行き
14:41宍道行き
14:43三次行き
この時間帯は三方向・三両の列車が備後落合駅に一堂に会する、一日一度のハイライトシーンになっています。

芸備線写真集 [ 山岡亮治 ]

感想(1件)

普通運賃表

なかなか魅力的なローカル駅名がずらりと並んでいて、それほど高額な運賃を必要とせず行くことができますが、ここで必要とされるものは圧倒的に「お金<時間」

待合所を通り抜けてプラットホームへ。改札ラッチは存在しません

駅員さんはいないけれど、車両の運用上三次方面からの列車が夜間停泊を行うため、駅構内に宿舎があり運転士さんが宿泊すると言います。
おそらく誰も下りない列車を停止させて、誰もいない駅構内を歩き、冷え切った宿舎へ向かう。ワンマンなのでそれを行うのは全て一人。仕事とは言え頭が下がります。

 

プラットホームの行き来

駅舎を出てプラットホームへ

こちら1番線は、元から片側一線のみで現在は「木次線(きすきせん)」が発着するホーム。

JR西日本規格の駅名標

三箇所ある隣駅の情報が、各線が落ち合う場所であることを物語っています。

2・3番線のプラットホーム

駅舎前にある1番線と少しずれた位置にありますが、現在はどの列車も一両で運転されているので、実際にはこれほどの屋根は必要としません。

1番/2・3番ホーム間の行き来はこちらから

都会は列車の運行本数が多いため跨線橋か遮断機がある構内踏切でプラットホームの行き来を行いますが、備後落合駅でのそれは列車が来ていないか目視確認の上、線路上に設けられた渡り口を歩いて隣のホームへ移動します。

同じような渡り口は、四国だと徳島県の日和佐駅(ひわさえき)が思い浮かびます(世の中にたくさんあります)。

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蒸気機関車時代の遺構

2・3番線ホーム、三次寄りの端っこの風景

複雑に敷設された線路と複数の信号機から、ここが分岐駅であることを知ることができます。

山側に目をやると、今では使われていないであろう鉄道施設がちらほら

こちらは車両のやり繰りを行っていた鉄道員さんたちの詰所。

機関車の前後方向を換える転車台跡

京都の梅小路機関区等でお馴染み「転車台(ターンテーブル)」
すっかり草に埋もれて判別さえ困難になっている姿に、悲しい現実を痛感します。

転車台は蒸気機関車の機関区以外でも、終着駅や備後落合駅のように車両のやり繰りを行う場所にも設置されていました。主に使用されていたのは蒸気機関車時代。SLは構造上片方にしか運転台がないため、終点に到着して再び走り出すためには機関車の向きを180度転換する必要があったためです。

【関連記事】雪に埋もれる未完に終わった終着駅<北濃駅/岐阜県郡上市>

乗ってきた列車が終点で、転回作業が次の行先に変わって発車するまでに行われるものであれば良いですが、備後落合駅のように途中駅であった場合、乗客にとっては長時間の待ち時間が発生することになります。
そこで出番があったのが「駅弁」やプラットホームにある「駅そば屋」。長時間乗車する乗客・駅弁店双方にメリットがありました。

備後落合駅ではかつてプラットホームに駅そば・うどん店があり、「おでんうどん」が名物グルメだったと聞きます。その時代に訪れたことが出来なかったので「プラットホームでおでんうどん」は経験できませんでしたが、おでんうどん自体は駅を出て徒歩約15分のところにある「ドライブインおちあい」で食べることができます!

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ドライブインおちあい

 

備後落合駅探索を行う上で最大の手がかりになるもの

駅舎内にあった構内配置図

これを見ると、蒸気機関車時代には列車を運行するためにこんなにたくさんの設備が必要だったのかと思い知らされます。また、往年の備後落合駅を探索するにあたりまたとない手掛かりでもあります。

現代の鉄道では旅客列車においては機関車の付け替えによる長時間停車は少なくなりました。食糧はコンビニ等駅の外から持ち込みます。駅弁が売れなくなったと言われて久しいところですが、これは乗客が少なくなった事だけが理由ではなさそうです。それが諸々の技術進歩や列車以外を含めた交通機関の発達によって訪れたものと考えると、科学の発達は地域格差が大きくなり衰退を招くとも取れます。

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立派過ぎるプラットホーム

先ほど遠くから眺めた2・3番ホームの屋根と待合所

一日に数本・一両編成の列車が発着するだけの駅にしては、立派過ぎるプラットホーム。
昔はこの駅で岡山から来た列車と広島から来た列車が増結されて山陰方面を目指したり、もしくはその逆で山陰方面から来た列車がこの駅で解結されて、それぞれの目的地へ向かって分かれる事もありました。長いプラットホームはその名残です。

駅員さんへの伝達事項でしょうか

おそらく発車ベルのボタン。現在は使用されていないものと思われます。注意喚起内容から、列車が発車する際に駅員さんへ確認を促す事項のように見えますが、無人駅化された今は運転士さんと自動化された信号が担っている作業です。

国鉄フォント発見

国鉄が解体されてからもしばらくは全国どこででも見ることができた駅名標ですが、最近はめっきり見なくなりました。ここで目にすると猶更嬉しくなります。
駅と言う様々な人々が使用する場において、平仮名かつ太字で誰にでも分かり易いのが国鉄フォント。今でこそ「ユニバーサル化」という言葉がありますが、その単語が存在しないずっと前からユニバーサル化を実行していた優れ者と言えます。

駅は海抜452mに位置する

海から遠いこの場所の標高は452m。結構な高さであることがわかります。隣(新見)の道後山駅(どうごやまえき)は更に高く624m。これは芸備線最高所です。

【関連記事】かつては列車でスキー。JR西日本最高所の駅<三井野原駅/島根県奥出雲町>

訪れたのは9月の日中ながら、摂氏26度を指していた

標高が高いことがあり湿気が少なく、日陰は涼しく夏場でも過ごし易い。
反面冬の冷え込みは相当で、雪もかなり降ります。そんな真冬の日に駅ホームで提供される「おでんうどん」は絶品だったのではないでしょうか。

ここより更に高所を走り雪が多い木次線は、あまりに雪が積もると除雪作業が行われず運休になり、長期間タクシー代行運転ということがありました。雪が多かった平成25年(2013)から平成29年(2017)は、1月2月を中心に冬期長期運休を余儀なくされました。ただしこの措置は、乗客数を鑑みての経営判断の面もあると思います。

駅舎と1番線との位置関係

芸備線に乗ってやってきた乗客が木次線に乗り換える場合(まやはその逆)、先ほどの渡り口から線路を渡って駅舎前にある1番線へ移動します。青春18切符シーズン等、その光景は民族大移動のようです。

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1番線のプラットホームとそれを覆うホーム屋根は、2・3番線と比べると短い

先ほどの構内配置図からの想像ですが、昔から1番線は木次線の専用ホームで長い編成の列車が発着することが無かった、のように思います。木次線から芸備線・伯備線方面に乗り入れる列車は2番線に発着すると、木次線にスイッチできる構造になっています。

その背後にある駅舎外部には新しめのエアコン室外機が見えるので、こちらが乗務員さんらが滞在する宿舎でしょうか。ここでワンマンの停泊は…星は綺麗でしょうね。

2・3番線プラットホームの端(新見方面)

「芸備線(備中神代-広島・158.1km)」の中で、ここ備後落合から東城が乗客が最も少ない区間。ある計算によると一日の乗車人数は「8人」
平均人数なので毎日必ずしもその人数が乗車するわけではありませんが、他の乗物で言えばハイエースなど9人乗り(1名は運転手)の「ジャンボタクシー」でも乗ることができる計算になります。夏には集中豪雨、冬には除雪など保線に投じるコストを考えると、到底鉄道を維持していくことができる実績ではありません。

赤字垂れ流し状態のローカル線を存続させる意味はいくつか考えられますが、芸備線は広義的に見ると「広島-姫路」間のバイパス線と考えることができます。これは山陽本線が大災害で不通に陥った際の迂回路と成り得る存在。この場所ではありませんが、阪神淡路大震災の時は兵庫県内内陸部を走るローカル線が代替ルートとして大いに機能しました。

が、先の平成30年7月西日本豪雨で山陽本線が不通になった際、芸備線は広島に近いところで鉄橋が流されてしまいその役割を担うことができませんでした。もっとも路線の規格や許認可の関係で、線路があるからと言って何でも走れるわけでもありません。

勝手な想像ですが、芸備線の閑散区間や木次線が廃止になる時は、一体で運営されている事情から一度に行われる気がします。

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アフターコロナは鉄道の旅をしよう

今回は自家用車での駅訪問ドギー

昨今、廃止が決定すると大勢の人が詰めかけすし詰め状態の列車になりますが、今だととても静かです。

今回のコロナ騒動で、止めを刺されるローカル線がこれから出てくるものと思われます。だからと言って今すぐ旅に出ることはできないでしょうが、世の中が落ち着いた時は公共交通機関応援を兼ねて列車の旅はいかがでしょうか。旅情という点では鉄道が一番です。

 

備後落合駅

 

旅の期間

平成29年9月


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